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Vol.62 ■突然変異もある鳥インフルエンザ
2004年に中国を始め、日本でも発生した鳥インフルエンザ。残念ながらその脅威は去っていません。ヒトからヒトへと感染する新型インフルエンザへ突然変異する可能性があり、その場合、世界で5000万人が死亡すると予測する専門家もいます。
■数十万羽の墓
  鳥インフルエンザとは何か? 記憶がおぼろげな方は、2004年2月に京都で発生し、大手養鶏場を壊滅させたバイオハザード事件を思い出してほしい。

あの時、日本で強毒性ウイルスの処理に当たったのは、生物化学兵器やウイルスの専門対策部隊ではなく、「一般の府・市の職員の即席科学防護隊」であり、結果的に鶏、数十万羽の巨大な墓地が作られたことは記憶に新しい。

昨年の鳥インフルエンザ強毒タイプ H5N1 は、社会経済的に我々に大きなダメージを与えたが、まだその脅威は終わっていない。ウイルスは根絶されずにアジアで大規模な活動を続けている。そして今、世界中のウイルス学者がさらに恐れていることがある。それは、鳥インフルエンザH5N1が、ヒトからヒトに容易に感染しうるタイプに突然変異することである。
◆鳥インフルエンザ参考サイト
  感染症情報センターのQ&A
日本生活協同組合連合会による鳥インフルエンザQ&A
日経サイエンスのウイルス特集号
 
■致死性高い新型?
  新型インフルエンザとは何を意味するのか? 簡単に述べると、ウイルスH5N1が、毎年日本で流行し、当たり前に感染する既存のインフルエンザのように、通勤や、職場や、学校などの日常生活の場で容易に、ヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザへと突然変異することである。

そして最大の問題は、人類が免疫を持たぬその新型インフルエンザの致死性が、非常に高いということなのである。

下記のWHOの発表によると、新型インフルエンザは全人口の20〜50%に影響があり、200万人〜5000万人が死亡するとの予測がされている(5億人が死亡すると述べる学者もいる)。死亡者が子供、老人のような弱者なのか、働き盛りの世代なのか、WHOは不明としている。もし、日本で発生したら、朝起きて会社に行く、といったような日常生活、経済活動が機能しない非常事態となる。

日本名物の満員電車通勤の車内で、感染者がマスク無しにくしゃみをした場合、どんなことが起こるかを想像いただきたい。問題は、今回の新型インフルエンザが、感染者の何%、ではなく、何割かを死亡させる可能性を秘めているということでなのである。

その致死性の高さから、ひとたび発生した場合、その地域全体の隔離、防護策なしでの外出禁止といった古典的対策でしか対処できないアウトブレイクが予測されるが、患者が大量に発生した場合、医療や生活必需品の確保はどうなるのであろう?
◆新型インフルエンザ参考サイト
  茨城衛生研究所の−新型インフルエンザ出現の可能性−
WHO2004年12月8日発表の警告
 
■急がれるワクチン開発
  その突然変異が起こった場合、もはや我々がその感染を食い止めることはできない。通常のインフルエンザのようにワクチンもまだ開発されておらず、現行では効くといわれている治療薬、タミフルも発病後2日間までの投薬が勝負、しかも耐性ウイルス発生が危惧されている。また、呼吸器症状のない子供の症例も報告された。我々市民が命を守るためにできることは、ひたすら日常の衛生に努め、正しい手洗いをし、マスクと目の粘膜を保護、人混みを避け、栄養をつけ、体調管理に努めるといった、古典的対処法しかない。(おろそかにされがちな一番の基本なのではあるが) なお、食べて感染をすることはないとされているが、一般的にWHOは、内部温度が70℃になるよう食品の加熱と交差汚染の防止を推奨している。
 
■兆候を見せなかったアヒル
  H5N1は、鶏に対して高い致死性を持つため(茨城衛研2004.02.08時点の資料)、発生がわかりやすかった。しかし、先日、兆候、症状のないアヒルにも確認された。
このことは、SARSの時に話題になった「サイレント・スプレッダー(無症状で病原体排出)状態の動物」が長期に渡りウイルスを排出する、という公衆衛生上の問題を示唆する。また、このウイルスは猫やトラなどの動物にも感染している。

また、ウイルスは、環境中で長く生存する。茨城衛研のサイトには以下のようにある。「トリインフルエンザウイルスは、鶏において通常、感染すると10数時間後から7日間くらいの間にかけて排出される。鶏フン中では、20℃で7日間、4℃では30〜35日間(105日間後に検出された例もある)生存する。」

一つ気にかかるのは、香港で野生のハヤブサやサギからH5N1が検出されたことである。猛禽類のハヤブサの死が何を意味するのか、猛禽類が何を食べて感染したのか、死因は何か、野生の中で死なずH5N1を持った別の野鳥がいるのか、さっぱり不明だが、不気味な事態ではある。
 
■アジアで事態悪化
  保健行政感染症ネットワークin北海道の各報道機関ウェブ直近情報(海外ウェブリンク)によると、アジアで事態は悪化し続けている。日本ではあまり報道はされていないが、アジアでは大規模な家禽の処理が行われ、タイやベトナムでは鳥からの感染だけではなく、家族的な集団感染が報告された。新型へ大幅な変異をするまでもなく、思われていた以上に人から人への感染もしやすいことが判明してきた(日本でも、京
都で鶏処理にあたった職員にウイルスの抗体が検出されたと発表があった)。

共同通信によると、2005年1月26日、WHOの李鍾郁事務局長は、ヒトからヒトへの感染能力を獲得するまでにはいかないが、ウイルスが変異していることは明らか、と発言した。

前述の直近情報からであるが、1月27日の報道によると、WHOはアジアの各国政府に警戒通知をした。WHOはアジア各国に、事態は1918年に数千万の死者を出したスペイン風邪大流行の前に似ており、もし発生すればヒトの間で脅威的に拡大する可能性は否定できない、として警告を発した。こうした中、1月28日に死者が30人となったベトナムは2月2日、国際協力を要請している。

一方、ある専門家はウイルスが変異し、ヒトからヒトへの感染を生じる性格を持ったなら、全ての対策は無効となり救いようのない事態になると警告している。
   
■最新情報にアンテナを
  アジアで猛威を振るっているH5N1が、変異の有無にかかわらず日本で発生するのは時間の問題なのかも知れない。人も物も動物もグローバル、ダイナミックに移動している現在、病原体に国境はない。今後、さらに事態が悪化すれば、渡航自粛、帰国者への検疫強化、輸入禁止が行われるのはまず間違いない。

新型肺炎SARSの教訓として、我々は「公式発表」や「国の対策」だけをあてにしていてはならない。国家的ダメージ、経済的ダメージを防ぐために隠蔽する国や企業もあれば、言葉の壁のために情報が伝わらぬ場合もある。今回、ウイルスの感染スピードがSARS以上に、国家や自治体の対策を凌駕することは十分考えられる。我々はつねに我々自身で現地の最新情報にアンテナを張り巡らせる必要がある。現地の報道や現地の掲示板、噂的な話題も(鵜呑みはいけないが)などにも注意を向けるべきである。

日頃から、社員や家族向けの衛生教育の徹底や衛生用品などの確保も必要だし、緊急時の情報伝達手段・方法を実際に試し、通常活動が出来なくなった場合を想定して、応用のきくマニュアルの作成、シミュレーションを繰り返し行い(実地訓練が何よりも重要である)、リスク管理に備えるべきである。

アジア地域で事業をしている企業は、特に状況を注視し、発生した場合の輸入材料在庫の調整、代替手配先、通信環境の強化、出張時期の調整、現地社員のマスクなどの衛生用品などの確保、衛生教育に努めるなど、独自の危機管理対策を確定すべき時期にきていると思われる。

最後に、京都での鳥インフルエンザ危機対応にあたられた山田啓二知事の言葉をもって結びとさせていただく。(京都新聞)

「法律論の段階ではなく、応援に来ていただけるかがすべて」
「スピードがすべて。マニュアル(通常の手順)通りにやっていては対応できない」
   

 

戸谷真理子
米国企業に在職中、感染対策の研修を受け、院内感染対策に関わる仕事に従事。現在はフリーの立場で情報収集中。

 
関連リンク
日本生活協同組合連合会
茨城衛生研究所
保健行政感染症ネットワークin北海道
動物衛生研究所
WHO(世界保健機関)「English」
山口県の防疫マニュアル
BSE&食と感染症 つぶやきブログ
 
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