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三宅島・雄山の噴火で火砕流の被害にあった神着地区にあるペンション、SNAPPERSを (スナッパース)ご主人と経営されている、みゃること野田理恵(のだりえ)さん。 ペンションが火砕流に直撃されるという予期せぬ災害にあって、その状況を冷静に インターネットで発信し続けたみゃるさんに、雄山での出来事を綴っていただきます。
   

40 菓子パンと大福

   小1時間ほど車で眠ったあと、勤福の建物の中に行くことにした。
学校と違い、ずいぶん快適なのだ。まず、なんといっても、トイレが、ちゃんと大人用になっていること、これは大きい。古い小学校などの避難所の場合、トイレは大人が使うに耐えられないことがある。狭さもそうだが、和式しかないこと、個室のパーティーションが不十分で、外から見えそうなこと。
数が不十分なこと。女性用でも、人の多い廊下から中が丸見えなこと・・・。
不満を言ったらキリがないが、用が足せればいいだろう、というものではない。健康問題に直結する問題だ。小学生が、学校で大便をするといじめられるから、できなくて、身体のリズムを崩すという話を良く聞くが、当たり前だ。

  建物の中に入ると、勤福の中の喫茶店が開店していて、そこで男衆達は、しゃれたグラスの生ビールを飲んだり、アイスコーヒーを注文したりしていて、結構にぎわっていた。少々むさ苦しいとも見えるかな・・・。

 割り当ての体育館にはいると、ぐっと女性率の方が高くなっていて、居心地がいい感じになっていた。そろそろっと、輪の中に入れてもらう。
すると、「おやつよ〜。」と、菓子パンや餅菓子が、大量に回ってきた。

 「正大ストアさんからね。」ほんの一瞬、空気が凍った。
普段、そうそうは買えない、どちらかといえば、贅沢品の方に入るデニッシュ系の菓子パン類。それなのに、「ラッキー!」という空気は流れない。
本当に一瞬だけ、皆がうつむいた。

 「食べてね。せっかくなんだから。」。
それが、どんなに重い意味を持つか。しばらく店を閉めていた正大さんだが、以前の避難の時も、子供達や、年寄りに菓子パンや餅菓子を配っていた。仕入れの度に、避難になるのだ。東京からパンがくる日は限られている。ましてや最近では、仕入れられるときに仕入れなければならないのだろう。これは、仕入れ品なのだ。避難さえなければ、売れた物。

 客を当て込んで、仕入れなければならない、そして、あてがはずれることの、打撃を、十分皆知っている。我が家のように、身をもって、の人も多くいる。

 元々が決して大きな利幅がある商品ではない。ましてや、賞味期限が短い物は、リスクが大きい。それでも、仕入れなければならないのが商店主。これまで、何度も、結局避難所で配ることになったけれども、店に来ることだけが、楽しみになっている島の人に、希望を与えるために、品物を切らすことはできない。目新しくて、賞味期限が短いパンや餅菓子は、美味しいし、楽しい。何より、生活が、まだ大丈夫、という証拠なのだ。
だから仕入れる。でも避難になった。腐らせるのは、忍びない・・・。
それなら、みんなに食べてもらおう。「ただ」で。

 目の前にある華やかな甘い物は、そう経緯で、ここにあるのだ。

 すすめられるままに、買ったこともないデニッシュパンを一かけちぎり、口に入れた。日配品の仕入額とは、いくらぐらいなのだろう。
私が聞いたら、気絶するほどの額であることは間違いない。どんなに、苦しいか、辛いか。このパンは、そのまま、正大さんの、血であって、肉だ。避難に弄ばれて、裏切られ続ける商店主の命そのものだ。

 傍らに、2リットル入りのペットボトルの水を置き、パンを食べるけれど、胸が苦しくて、飲み込むことができない。見た目に甘いはずなのに、味がわからない。もちろん、舌に感じる味は、最高に美味しい。けれど、美味しい分、それは、心に突き刺さる。
苦しくて、苦しくて、2かけ食べるのがやっとだった。

 その時は、やはり、みんな思うように食べきることができず、とりあえず、分けることになった。いつもは大好物の大福も、分けてもらって、持たせてもらった。
それは、夜になって、暗い車の中で、ひとりで泣きながら食べた。自分がやっていることは、共食いだ。自分は、何もできない、みんなに優しくしてもらうばかり。
手を差し出してもらうばかり。それにすがって乗ることしかできない。
大きなピンクの大福は、甘くて、美味しくて、自分の無能と無力の味がした。
 
   
(野田理恵)
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