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三宅島・雄山の噴火で火砕流の被害にあった神着地区にあるペンション、SNAPPERSを (スナッパース)ご主人と経営されている、みゃること野田理恵(のだりえ)さん。 ペンションが火砕流に直撃されるという予期せぬ災害にあって、その状況を冷静に インターネットで発信し続けたみゃるさんに、雄山での出来事を綴っていただきます。
   

37 閉じこめられたまま

  午後になっても、家の前の傾いた電話の電柱は倒れてこなかった。
とにかく、なんとかしなくては、と、あちこちに電話をかけたけれど、日が暮れる前に電気が復旧するのは、絶望的かもしれない。
都道からこちらに車が入れないのでは、電線の復旧のしようがないだろう。

ダメとわかっていても、なんとかならないかと、もがいてみる。
都の災害関係じゃないかな、とあたりをつけた窓口に電話をしてお願いをしてみる。
電話に出た職員が言うには、「都内では、現在停電は起きていないし、今朝の噴火で、そんな大きな被害がでたという報告はいっさいない。」
と、とりつく島もない。いたずら電話をしていると思っているのだろうか。
他にはそれらしいところは見あたらないけれど、やっぱり部署違いだったのだろうか。
それとも、ちょうどお茶の時間で、コーヒーが冷めるのでも気になったのだろうか。
いずれにしても、電話代を損した上に、悲しくなっただけだった。

村道をなんとかして開通させてもらえないだろうか。
あちこちに聞き、いろんな人にも聞いてもらったりしたが、村道に入る小さな重機が不足していて、どうにもならないようだ。

今日、何があっても、もう、どうにもならない。
あと4時間もすれば、暗くなる。さっき島外にかけた電話でわかった。
家は、このまま避難も準備もできず、熔岩が流れてきて、家ごと飲み込まれ死んでしまっても、「都内では、なんの被害もありません。」と発表されるのだろう。
元々何もなかったことにすれば、余計な仕事をすることなく、おやつの時間には、ちゃんと熱いままのコーヒーをすすっていられるのだから。
いや、その前に筋違いな電話がかかってこなくなっていいのかも。

明るい内のあと4時間弱。何をしておかなければならないだろう。
とにかく、鳥関係。ホッカイロは今の内に探しておかなければ。
次に、とにかく、思いつく限りの電話。電話線が切れるのは時間の問題。
そして、今度こそ、ろうそくが必要になる。それも、いくつも。

庭から村道まで車を出すために、その分だけの灰をよけようとしたが、やはり、人力ではどうにもならない。スコップが折れてしまったのだ。
その時点であきらめた。

観光ホテル側の村道は、歩いてならば、もうしばらくして、もっと灰が固まってくれれば、都道まで抜けられそうだ。
灰で固まった避難カーのドアを無理矢理開けて、持って移動できるだけのパッキングを作り直した。

ポータブルテレビも家に回収した。でも、電源が電池だけしかない。
この先何があるかわからないので、それに備えて、電池をケチる。
このテレビは、電池を異様に食うのだ。
電池を使う優先順位は、やはり、最終的には懐中電灯だと思う。
理由を並べてみても、明確なものはないのだけど・・・。
全てがなくなって、最後の最後に、必要なもの、用途が広いもの、と考えると、なんとなく、そうなるような気がするから。

電池をなるべく使いたくない気持ちと裏腹に、電波の状態が悪くて、テレビはなかなか映ってくれない。砂嵐の状態でも、電池は減る。
ニュース番組や、天気予報など、放送時間に合わせてテレビをつけるものの、残念なことに、何が報道されているのかがわからない。
部分的な単語は、かなりはっきり聞き取れるものもあるのに・・・。

段ボールのふたを開けて、鳥の様子を見ると、残った体の羽毛が完全に乾いて、少しだけ鳥らしくなっていた。
といっても首から上がハゲているので、かわいらしさは、いまいち・・・。
私のことを見ると、ピーピーキーキー文句を言うように鳴いた。
元気だ、良かった。じゃあ、がんばったご褒美に、「ぽぽ」をあげるからね。
見たこともない貴重品なんだから、ちゃんと食べてよ、と差し出したら、味わうこともなく、すごい勢いで食いちぎった。綺麗な食べ方じゃない。
くちばしを滅茶苦茶に果肉に突き刺して食いちぎるので、くちばしが汚くなった。
食べるときの姿勢が違うけれど、まるでハゲタカのよう。
ガツガツしてるなぁ。
そのあとで、マーガリンとパン粉をこねたものをあげたけれど、これはお気に召さなかったようで、散らかしただけ。
甘党なんだろうか。

そうこうしている内に、とうとう日が暮れてしまった。
ろうそく出動だ。
1つ、ものすごい明るさの懐中電灯もあるけれど、ダイビング用の海中で使う仕様のせいか、普通に使うと、異常に熱くなる。
それに、異常に電池を食うので、これは、ここ一番の一瞬用。
その他の懐中電灯も、我が家の場合は、全部ダイビング用だ。
それが1本ずつトイレや、各部屋に置いてある。
移動用も1人に1本ずつ用意してある。

ふだんの生活では、トイレに入るときに電気をつけるのは、当たり前なのに、停電の時に、トイレで懐中電灯を灯して用を足すのは、
かなり、まぬけな図だと思う。まあ、床や窓枠に置くとかすればいいのだけど。
我が家は洋式なので、懐中電灯を持ったまま座るわけだが、目の前の壁を意味もなく照らすことになる。かといって、消すと、真っ暗。
なんか、どうしていいのかわからなくて、誰も見ていないから、つい、顔を下から照らして、舌を出してみたりして。バカだなー。

夜8時を過ぎた頃、東京電力の人がひょっこり家に来た。
ここまでどうやって、歩いてきたのだろう、びっくりしてしまった。
すっかり汚れたユニフォームで、ずっと電気の復旧作業をやっているのだという。そして、丁寧に説明をしてくれた。
都道などにある、大きな電柱の1本1本がダメになっていて、非常に手と時間の掛かる復旧作業になってしまっていること。
碍子などについた灰をしっかり取り除かないと通電ができないこと。
大変な作業で、我が家のような引き込み線の電柱の復旧は、今日中にはできそうにないことを教えてくれた。
ろうそくの光でもわかるほど、汚れと日焼けで真っ黒な顔。
今日1日、ずっと、必死で復旧作業をやっていたことが、その様子で良くわかった。
外がどうなっているのか、教えてもらえて、安心できた。
これで、見通しをつけることができる。
家は、もう大丈夫、だから、もう、今夜は、無理をしないで、休んで欲しい・・・そういうわけにはいかないのだろうか。

電気が今夜は来ないことを知ったので、どんどん次の事ができた。
こういうときは、待つことが一番やるせない。
停電が続くなら続くで、それがわかれば、やれることはたくさんある。

水風呂だけど、入浴。ダイビング用の強力ライトを湯船に沈めてみたけれど、お湯が温まるほどには発熱はしない。当たり前か。残念。
水で髪を洗うのは、返って皮脂が固まりそうで、においそうで嫌だけど、この先どうなるかわからないので、一応洗っておく。
もしも、これが最後の洗髪のチャンスだったら、水だからって洗わなかったことを絶対に後悔するから。

鳥が入った箱は暗くなってからほとんど音がしない。
1度だけ、ふたを開けて、パッと照らして、様子を確認。
うずくまっているように見えたので、ぎょっとしたが、ただ寝ているだけだった。
首を縮めたまま、片方だけ面倒くさそうに目を開けた。
ウエスの中に入り込むことなく、箱のど真ん中にボテッと座っているところを見ると、寒くはないようだ。
さっきあげて、箱に入れておいた「ぽぽ」は、中身はとっくになくなっていたけれど、まるでヒステリーでもおこしたかのように、食べられるわけがない固い皮が、無惨に食いちぎられて、バラバラに散らかっていた。
もしかしたら、こいつは、ひよどりとかではない、どう猛な鳥なのかもしれない。

大丈夫だろうか。明日の朝まで。
明日、また指に噛みついてくれるだろうか。
自分がしたことが、正しいのか、まちがっているのかわからない。
今、なにをしたら、どうしたらいいのかもわからない。
明日の朝、この箱を開けたときに、もしかしたら。
今まで何度もそういうことがあった。
その中には、病気も怪我もないように見えて、死ぬなんて考えられなかったこともあった。
人の手に落ちた野鳥には、夜の間に死神が来る。
箱のふたの上に、富賀様のお札を置いて、手を合わせた。
 
   
(野田理恵)
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