rescuenow.net   ホームへ
三宅島・雄山の噴火で火砕流の被害にあった神着地区にあるペンション、SNAPPERSを (スナッパース)ご主人と経営されている、みゃること野田理恵(のだ りえ)さん。 ペンションが火砕流に直撃されるという予期せぬ災害にあって、その状況を冷静に インターネットで発信し続けたみゃるさんに、雄山での出来事を綴っていただきます。
   
27 本業
 
ダイビングだけのお客様は、今月に入ってから、2回あった。
しかし、ダイビングのみの場合、私の仕事は、あっても、お昼ご飯を作って出すことだけになってしまう。
噴火はしていても、いや、噴火しているから、お客が来なくて島の中の食材はかなり潤沢だ。
こんな時は、三宅特有の美味しいものを食べてもらえる、チャンスなのに。
もう、大幅に少なくなってしまったけれど、マスコミが入っている民宿がうらやましいと思ったりする。
 

友路橋の上に、いつからだろうか、もうずっとずっと、TBSの人がいる。
いつもそばにTBSと書かれた車があるから、そうだと思うけれど、彼は、いつも1人、ずっと山を見ている。
山が静かなときも、なんとなく怪しいときも、夏の直射日光が刺すように照りつける日も、風の日も。
いつ通っても、1日に何回通っても、雄山を見ている。彼が、だんだん日焼けしてきて、そして、その日焼けがひどくなってきて、いつの間にかこっちに顔があるのに、ぱっと見は後ろ姿のように見えるようになってきて、ちょっと心配。
島に住んでいる者だって、こう長くなってくると、1日中、雄山を見つめるということもない。
家族と離れて、自然の猛威にさらされて、ぐずぐずはっきりしない山を見つめて。
この世界で、一番、三宅を、雄山を見ていた人になるかもしれない。
私は、山より、彼の日焼けと体調が心配で、友路橋を通るたび、彼の姿を探してしまう。

さて、今日からのお客様は、私だけが本業パワーを発揮できる形だ。
ダイビングではなく、仕事での来島、1泊2日。本当にお疲れさまです。

食事作りに気合いが入る一方、気になるのは、噴火だ。
ダイビング客のように、1日中一緒の行動ではない分、心配。
無論、日中は、職場の人達と一緒で、こんな森の中の1軒屋の家よりはずっと情報があるだろうけれども・・・。
万が一、何かが起きたときのために、朝、仕事に出発するときに、荷物を全部持っていってもらうことにした。
もしかしたら、ここには帰ってこられないかもしれない、あるいは、極端なことを言えば・・・
今日、ここはなくなってしまうかもしれない。
それが、あり得るから、1泊だけ、それも仕事で来られた方は、倒だし、重いけれど、荷物はいつもそばにあった方がいいだろう。

今日の夕飯は・・・赤バットの中華マリネ。
赤バットとは・・・文字にすると食べる物じゃないみたいだけど、名赤サバとも言って・・・魚です。
東京じゃ見たことがないし、似た魚もいないので、何とも説明が難しい。
サバというのは、身と味がサバに似ているからかな。
バットというのは、たぶん野球に使うバット。見た目が似ている。
本当の名前はなんなんだろう?

煮物はイカじゃが。イカは、なんと赤イカ。なんてもったいない、罰当たりな。
でも、ストッカーに、たくさん赤イカが入っている。
刺身に、一番良い所だけを贅沢に使って、それ以外とジャガイモを一緒に。
ジャガイモも、今年島で取れたもの。いつもの夏だったら、とうの昔になくなっているのに。

そして、カンパチのあら煮。みそ汁は、島アサリ。

利八屋さんに行くと、いろんな刺身がある。もちろん島で取れたもの。
どれにしようか悩む。どれも美味しいだろうけれど、何が一番、三宅のことを覚えてもらえるだろう。
三宅でしか食べられない美味しいもので、この島の豊かさと、本当の贅沢をしてもらいたい。
いくらお金を出しても、東京ではなかなか食べられない美味しいものがここにはたくさんあることを、知って欲しい。

無事夕方になり、みんな仕事から戻ってきた。
主人も、坪田の灰下ろしから戻ってきた。ああ、今日は噴かなかった。
夕飯を、無事出すことができて、普通に夜が更けていった。
ダイビング客の場合は、夕食後、その日のダイビングの記録付をしたりするが、それがないのが、ちょっと寂しい。

明日の朝食の支度をする。久しぶりに、まとまった量の米を研ぐ。
いつもの年なら、6升とか研いでいる頃。一夏働かなかったから、筋肉もだいぶ落ちたような気がする。

自宅に戻って、猫と見つめ合う。ここ毎日、夜になるとこんなことばかり繰り返す。

いつまで、今までのようなラッキーが続くだろう。
避難カーで、猫も一緒に避難できるようにしたといっても、今までそれが実質発揮されたのは、1度だけだった。
一番大きな噴火の時は、自分達が避難所に行けなかった。
1度だけ一緒に避難していたのも、2泊だけ。
その時の避難の理由は、「台風接近の大雨の泥流の警戒」の意だった。
大事が起こった故ではなく、警戒だったから、大丈夫なことがわかった時点で避難は解除になった。台風という、わかりやすい材料だったから、短期間の避難で済んだ。

泥流で、川田沢があふれたら、家は陸の孤島になる。
避難所にいたら、道路が通るまで帰れなくなる。
御子敷や島下が、いつも避難期間が長くなるのと、同じ事が起こるだろう。
1週間車の中にいることになったら、その日々が、猛暑だったら。
避難所から、直接東京に出ることになったとき、その時は。
パニック状態になるような噴火や地震が起きる可能性だってあり得る。
その時、猫2匹を、船に持ち込むことが許されるだろうか。

「まーちゃん」と呼べば、みーちゃんの方が返事をし、どっちの名を呼んでも知らんふりの時もあれば、「ブタ猫〜」と呼んでも、ダッシュで2階から駆け寄ってくることもある。
猫は、気まぐれなのか、バカなのかわからないけれど、言うことを全く聞かないという点は、こういう状況下では、確実に、犬よりイタイ。
 

(野田理恵)

  前へ index 次へ

 

閉じる
 
rescuenow.net:Copyright (c) rescuenow.net Inc. お問い合わせ プライバシーについて