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三宅島・雄山の噴火で火砕流の被害にあった神着地区にあるペンション、SNAPPERSを (スナッパース)ご主人と経営されている、みゃること野田理恵(のだ りえ)さん。 ペンションが火砕流に直撃されるという予期せぬ災害にあって、その状況を冷静に インターネットで発信し続けたみゃるさんに、雄山での出来事を綴っていただきます。
   

26-2 それぞれの仕事

 


本題の中野先生の話で盛り上がっているとき、電話が鳴った。
「30分ぐらい前に、臨時火山情報が出たのに、村内放送、入っていないよね・・・。」
「んー、今のところ入っていないねぇ。」
最近になって、防災無線放送は、どういう訳か、NHKのニュースの1テンポ後に入るようになってしまった。そんなわけで、テレビがついているときは、
放送をあまり気にしていなかったりする。
音量は最大にしてあるので、必ず聞こえるせいもある。
「臨時火山情報が出たんだよ、雄山はまだこれからも噴くかもしれないし、泥流の危険もあるんだよ・・・。」声が、なんだか泣いているように聞こえる。
「わかった、ありがとう、でも、今夜、大噴火っていうことではないのでしょう?
夜だし、放送する人が役場に行こうとしている途中かもよ。」
「でも、もう30分も前に出したんだ。どうして・・・どうして・・・。」
私は、声の主が、もうずっと、ほとんど休みもなく自分の仕事に没頭せざるを得ないことを知っている。
彼が、一生懸命を通り越して、必死なことを知っている。
おそらく、彼は歯車の1つでしかなく、彼の理想的な任務の遂行が、様々な歪みによって、かなわないことも想像できる。
それが彼にとっては、自分の村の人への裏切り行為のように思えて、自分を責めているのかもしれない。
「そうなんだ。わかった、じゃぁ、もう少し、準備をちゃんとするね、それと、いよいよの時のことも話し合って決めておく。」
そんなようなことを言って、受話器を置いた。
本当に言いたかったこと。言えなかった。
「わかっているから、泣かないで。」

もしも、彼が、雄山の勢いの果てに、彼の田舎にいるご両親を悲しませるようなことになりそうならば、仕事を辞めて田舎に帰って欲しい。
でも、命の安全と引き替えに、大好きな仕事を失うことになる。
その誠実さゆえ、自分は裏切り者だ、といったような負い目も背負うことになる。

彼だけに限ることではなく。
仕事を辞めて避難すること。
三宅が勤め先のみならず、生きる場になっている者の場合、全てを失ってしまうことになる。

避難することは決して逃げることでも裏切ることでもない、それは、皆、当然承知していることではあるが、噴火に関係する要職についている人間にとっては、それが通らない部分がある。

得てして、そういった職に就いている人は、今だからこそ、誠心誠意、がんばっている。
電話の彼のように。
自分の家のはできなくても、診療所の灰かきはする診療所のスタッフのように。
避難の放送が入ると、家族と別れて、避難とは逆方向に出動する消防団のように。

この人達の、気持ちを踏みにじって、誠意を蹴散らす何かが、島を覆い始めている。
およそ、正義とは反対のもの。
人の気持ちを荒ませ、笑顔を消すもの。
まっすぐに職務をまっとうしようとする心根を嘲笑うかのような。

電話を切って、パソコンから臨時火山情報を確認した後、みんなに電話の内容と、1時間ほど前に出たその火山情報を説明する。
「じゃぁ、家も、何か準備でもするか。」と、集まりはお開きになる。

家も明日からお客様だ。
本業は2週間ぶり、でもダイビング客ではないので、我が家では私だけが本業フル回転となる。
そのお客様も、仕事での来島である。

ひとりになって考えた。仕事。雄山のご機嫌を伺いながらの生活。
自分1人だったら、いくらでもがんばれる。
 家族。意志のある者はいい、今の状況が判断できて、自分で動ける者はいい。
私は、意志のない、判断力のない家族を守りきることができるのか?
答えは、NOだ。私にとって、どんなに大切な家族でも、他から見たらただの猫だ。飛行機の乗るときは、子供料金を取られても、その他の場面で、人間の子供扱いされることは絶対にない。

夜中、自宅側に戻り、飼い猫の顔を見つめる。なんにもわかってない寝顔。
ひげを引っ張ると、めんどくさそうに顔の向きを変える。
鼻の穴をふさぐと、ちょっとだけ起きる。
これから先、どうなるかわからない。
この2匹は、捨てられていた時以来、外で生活したことがない。
野良猫になるのは、無理だ。
ましてや、屋外がこんな状態だから、尚更。

どうしよう。どうにもならない。
せめて一瞬でも、人間の姿に化けられたら。

 

(野田理恵)

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