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防災研究家の与太噺
富士常葉大学環境防災学部で防災について研究をされている小村さんに防災学についてコラムを書いていただいています。

■2002.6.27 Vol.11
「賢い市民」候補生のための「二十八の扉」

私が属している富士常葉(とこは)大学は、開学3年目、学生数がようやく千人を超えたばかりのこじんまりとした大学です。キャンパスは、富士山の南麓、静岡県富士市大渕という、東名高速の富士ICより車で5分ほど山側に走ったところにあり、天気がよければ校舎の裏側には富士山がそびえ、研究室の窓からは伊豆半島の山々を望むことができるという、ロケーションとしてはなかなかのところです。

大学ですから教育と研究は当然のこととして、「社会に開かれた大学であれ」「地域に生き、地域に貢献できる大学であれ」と、「(環境であれ防災であれ、循環型経済や地域起こしであれ)私達の持つノウハウを社会に還元してナンボ」という意識が強くあります。学長が良い意味でアバウトな人で、大きな方向性を示した上で、あとは教員の自主性にまかせてくれています。ですから、私のような与太な教員が、地域社会に入り込み、地元の人と一緒に防災ネタで遊んでいることを、大きな目で見守ってくれています。まさに、「持つべきは、話のわかる上司(^_^)
まぁ学長の話はさておき、今回は、ウチの大学の「売り」でもある出前講座をネタに、最近考えていることについて話をさせて下さい。

先日、地元G中学校のS校長先生以下お三方の訪問を受けました。来意の主旨は、「我が校では、中2と中3の各1クラスの計2クラスで、総合的学習の時間を使い、通年プログラムとして防災を取り上げているのだが、我々だけではどうしても限界がある。ついては富士常葉大学の防災関係の先生方に、ご協力をお願いできないだろうか」とのこと。もちろん、事情の許す範囲でご協力する旨をお伝えはしたのですが、やはりちょっと考えました。1校2校の話ならばともかく、もっと多くなったらどうしよう、と。

 今年の4月から、総合的学習が本格的に始動しました。かつて私自身が「防災は総合芸術である」なんてわかったようなことを口走ってしまった記憶もありますが、実際、防災は、環境とならび、まさに総合的学習のテーマに相応しいものと思っています。ただ、実際の防災教育カリキュラムとなると……。子供のころを思い出しても、「まとまったものってあったっけ?」そりゃ私だって、小中学生のころは、避難訓練や消火訓練くらいはしました。でも、「その日その時だけは上履きのまま校庭に出てもいいよ」ということくらいしか、記憶に残っていません。そして、今から思うと、避難訓練や消火訓練って、防災や災害救援の全体像の中では、極めて小さな断片に過ぎないのですよね。(もっとも、そのことに気付いたのは、今の立場になってからの話ですが……。)

気になったので、授業で学生に聞いてみました。今まで、防災教育で何をやってきたか、と。そうしたら、結果は似たり寄ったりで、圧倒的多数は毎年1回か2回、避難訓練や消火訓練をするくらいとのこと。ウーンと考えてしまいました。「こりゃ、アカンなぁ……。」

別のところで書いたことでもあるのですが、私は、防災を考える上での最大のキーワードは「賢い市民」であると考えています。誤解のないように言っておきますが、「賢い市民」は考え得るすべての災害に十二分に備えている、というようなものではありません。そんなことをしていたらお金がいくらあっても足りません。襲われるかもしれない災害の規模と頻度を考え、自宅の耐震性を調べ(小学校6年生でも調べられます!)、耐震補強にかかる経費を調べ、……。踏まえるべき点を踏まえた上で、自分で方針を決めることができる市民、それを「賢い市民」と呼びたいのです。(ついでに言えば、自分が想定した以上の事態に見舞われたら、自分の判断が誤っていたとして、他者に責任転嫁しないプライドは、是非期待したいところです。)「自己選択」「自己責任」こそが「賢い市民」の基本です。
そして中学の2年生・3年生は、「賢い市民」の立派な候補生なのです。

G中学校では、毎週木曜日の午後に1コマ50分の授業を2コマ使い、防災の授業をしているとのこと。通年の授業となると、大体28週になるのだそうです。という訳で、G中学校の先生方と一緒に、28週分の防災教育のプログラムを考えるというプロジェクトに取り組もうかというところです。いわば、昔々のTVかラジオの番組名ではありませんが、生徒さんを「賢い市民」候補生として鍛え上げるための「二十八の扉」というところでしょうか。

防災と防災教育の総合性を、28週56コマという限られた時間の中で、どのような流れとして示すか。それを一回一回の授業の中でどのように組み立てるか。テーマは何で方法は座学か実習・実験か。そのための資料やデータをどこから集め、どうやって整備するか。等々。なかなか取り組み甲斐のある課題です。うまいことやって雛型が出来れば、それをHP上に提示することで、次の展開も生まれてくることでしょう。

いつものように、紙と鉛筆を用意して、頭に浮かんだキーワードを書き留めることからスタートです。

 

ご意見、ご要望、ご質問などは、komura-column@rescuenow.netまでお願いします。


富士常葉大学環境防災学部講師 小村隆史

小村 隆史先生:画像 小村 隆史
(富士常葉大学環境防災学部講師)

1963年千葉市生まれ。ICU卒。同大学院修士課程 修了。
防衛庁防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本で最初の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境 災学部に、開学と同時に着任。教育・研究の傍ら、災害医療救護計画の改訂、自主防災組織リーダー研修、災害図上訓練DIG(ディグ)の企画・運営などにも携わっている。防衛研究所在職中からボランティアとしても活躍。ナホトカ号重油流出災害、東海豪雨災害では本部運営にも関与。昨年夏はネパールに滞在し、カトマンズ盆地地震防災計画の立案プロジェクトに参加。
 
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