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防災研究家の与太噺
富士常葉大学環境防災学部で防災について研究をされている小村さんに防災学についてコラムを書いていただいています。

■2002.6.10 Vol.10-1
北の漁場」と「だれかが風の中で」、そして「ヘッドライト・テールライト」
−ついにワールドカップが……(番外編)−

与太噺も10回目になりました。根がグータラな性格ゆえ、予定を大幅に遅れての10回目。まぁ、それでも、10回は10回!「長かった道のりを振り返って、一人静かに……」などというアホは申しませんが、まぁ、それでも、一区切りは一区切り(^^ゞ

ほとんど自己満足のために書き始めたコラムでした。どうせ誰にも読まれることはないだろうなぁ、と。でも、つい最近、このコラムを書いたがゆえの素晴らしい出会いがありました。記念すべき(?)第10回は、興奮さめやらぬそのことについて書かせて下さい。

話の発端は、第9回のコラムがアップされた直後の、5月12日、日曜日の夜のことでした。私の携帯電話に、レスキューナウのK君から電話がありました。「読者コメント受付用のアドレスにメールがあったのですが、文面からすると急いで対応したほうがよいと思うので、チェックして下さい」と。それは、与太噺の中で何回か触れた、W杯宮城大会の災害医療救護計画に関するDIG(Disaster Imagination Game、簡易型災害図上訓練ノウハウの名前です)の資料を送ってもらえないか、との、別府市にお住まいのN先生からのメールでした。

お話をうかがってみると……。
4月も下旬になってから、W杯大分大会における災害医療救護チームに加わるよう、急遽指名があったとのこと。しかし、どうにも全体像の把握が出来ず、また理解できる範囲だけで考えてみても問題点が山積なのだが、誰に聞いても明快な答えをもらえない。とはいえ残された時間も限られており、その中で何か出来るとすれば図上訓練くらいしか思いつかない。そこでホームページの検索をしていたら、このコラムにぶつかった。ご多忙中とは思うが、何とかご協力をお願い出来ないだろうか、とのこと。

パトスを持った人が世の中にはまだまだいるはずと思っています。仙台・宮城の地にもおりましたが別府・大分の地にもおりました。N先生の熱意に感じ入り、手伝える限りは手伝おうではないか、そう腹をくくった訳です。

それから2週間が怒涛のように過ぎていきました。そして5月25日(土)、この日は東京・田町で、「東京災害ボランティアネットワーク(東災ボ)」と「震災がつなぐボランティアネットの会(震つな)」という、日本の防災ボランティアの主だったメンバーが集まる会があり、私もK君もその場にいたのですが、懇親会もそこそこに会場を抜け出し、K君共々大分に向かう最終便の乗客になっていました。翌26日に行われる大分スタジアムでの実働訓練(特に医療救護訓練)の押しかけチェッカー役としての大分行きです。

このコラムを書いている6月8日現在、幸いにも各会場での大きなトラブルはなく、無事に試合は消化されていっている模様です。(チケット販売については、ボロボロですが。)その背後には、多くの関係者の涙ぐましい努力があったであろうことは想像に難くありません。大分大会に関して言えば、特筆すべきことは3点あると思いました。

* 大会期間中、大分市消防局内に「救急医療指令センター」を開設、医療コーディネーター(医師)1名が、搬送先医療機関の調整を行うべく常駐していること。政令指定都市など大規模な自治体であればともかく、消防(救急)と医療の連携、いわゆるメディカル・コントロールを、部分的で期間限定とはいえ実現したことは、将来進むべき方向を示したという意味でも、素晴らしいことであったと思います。

* 集団災害モードへの移行基準が、(医療救護関係者のみの基準ではあるが)予め決められていたこと。モードを変えるための「閾値」を予め決めておくことで、不測事態における混乱要因を減らすことが可能になります。今回の基準は、(1)同一の原因で同じような症状の負傷者・疾病者が10名以上発生、(2)3名以上の中等症の発生、というもの。原因としては、爆発、集団暴動、建物破壊、火災等が想定されていますが、当然NBCテロ、集団転倒等も含まれることになるでしょう。無論、実際にこの規模(かなり低い閾値です)で発動するかどうかは、状況によるでしょうが。

* 現地連絡調整所の開設を決めていたこと。県・市・消防(大分市消防局)・警察(大分県警察本部)・自衛隊(陸上自衛隊第42普通科連隊)・医療人の6者の代表が常時詰めている場所が定められました。関係機関の実務担当者が雁首揃える現場指揮所のイメージです。多くの機関が連携して救援活動を行うには、同じ地図(テーブル)を関係者が囲んで議論する場(調整所)は不可欠です。ただ、理論的には必要なことであっても、そのことが関係者の間に十分認識されているかといえばいささか疑問であり、さらに言えば具体化したものがあるかと言えば、さらに疑問です。この意味で、現地連絡調整所が設置されることは、大変大きな意味を持ちます。

もっとも、厳しい見方をすれば、頭をかかえてしまう部分も多々ありです。消防や警察は独自に何度も実働訓練を繰り返したことと思いますが、医療救護に関しては、「図上訓練を行ってから実働訓練を行う」原則もくずれ、実働訓練も今回限り。「全国10会場の最後を飾る実働訓練」と言えば聞こえはよいものの、W杯開幕のわずか5日前で、大分スタジアムでの最初の試合の半月前。このスケジュールだけを見ても、「本気で問題点の指摘をする気はないな」と言われても、仕方がないことでしょう。
 「やることに意味がある」訓練ではないはず。実働訓練を介して重大な問題点が見つかったら、どうするつもりだったのでしょう。スタジアムの改装は物理的に間に合わないし、各種計画類の見直しがよしんば数日で終わったとしても、改訂後の計画を実働訓練で検証する時間的余裕はもうないよなぁ……。そんなことを、つい思ってしまいます



(Vol.10-2へ続く)

ご意見、ご要望、ご質問などは、komura-column@rescuenow.netまでお願いします。


富士常葉大学環境防災学部講師 小村隆史

小村 隆史先生:画像 小村 隆史
(富士常葉大学環境防災学部講師)

1963年千葉市生まれ。ICU卒。同大学院修士課程 修了。
防衛庁防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本で最初の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境 災学部に、開学と同時に着任。教育・研究の傍ら、災害医療救護計画の改訂、自主防災組織リーダー研修、災害図上訓練DIG(ディグ)の企画・運営などにも携わっている。防衛研究所在職中からボランティアとしても活躍。ナホトカ号重油流出災害、東海豪雨災害では本部運営にも関与。昨年夏はネパールに滞在し、カトマンズ盆地地震防災計画の立案プロジェクトに参加。

 

 
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