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防災研究家の与太噺
富士常葉大学環境防災学部で防災について研究をされている小村さんに防災学についてコラムを書いていただいています。

■2002.5.7 Vol.9
「ついに、ワールドカップが……」(その3)

「いよいよ本番です」と言ってから約1ヶ月、そうこうしている間に、ワールドカップ本番まであと1ヶ月を切りました。
年度始めのドタドタ、授業開始、そして4月23日に神奈川県伊勢原市で行われた「湘南救急活動研究協議会」の年次総会でのイベントにドップリとつかってしまい、原稿がお留守になってしまいました。ごめんなさい。たかだか原稿用紙5〜6枚の分量を週イチペースで出すのにてこずっているのだから、週刊誌に連載している漫画家などは、命をすり減らすような日々なのだろうなぁ……。(伊勢原でのイベントについては、いずれ書かせてもらうつもりです。請うご期待!)

他人のことはともあれ、話をW杯に戻しましょう。
ワールドカップ。4年に一度の、おそらくは「スポーツ界最大の祭典」です。だから、本当は、親しい仲間を呼んで、ビールを片手にTV観戦で大いに盛り上がりたいところ。祭りは祭りとして楽しまなくちゃね、と言いたいのです。ただ、どうもこの国の人は、お祭りをお祭りとして楽しむことと、不測事態に備えることの区分があまりうまくないようで……。

Y2K騒動の時のTV報道を思い出してみて下さい。世界各地からは、新しい千年紀(ミレニアム)を迎え、国をあげてお祭り気分で盛り上がっている映像が届く一方で、我が国の場合は、お偉方が雁首をそろえ、「とりあえず大きなトラブルは何もありませんでした」という首相官邸からのTV中継。入念な準備を重ね、「やるべきことはやった。あとは、せっかくの祭りだから楽しもうではないか」という派と、直前になって慌て出し、祭りを祭りとして楽しめない派。「後者では困ったモンだ……」と言いたいところですが、「締め切りを過ぎないと動き出さないようなアンタに言われる筋合いはないよ」という声が聞こえてきそう(^^ゞ
いかんいかん、また、脱線してしまった。話を3月22日、宮城スタジアムに戻しましょう。

皆さんは、ロールプレイ方式という、図上訓練の方法を聞いたことがありますか?「ロール(role)」は役割、「プレイ(play)」は演じるということで、関係者がそれぞれの役割を果たしつつ(演じつつ)、対応の良し悪しを検証する訓練ノウハウです。これはこれでなかなか面白いものなのですが、このロールプレイ方式が「きちんと」成り立つためには、一つの条件があります。それは、関係者が、いざという時の自分の役割をきちんと認識しているということです。そして実は、この条件が満たされていることは意外に少ないのです。考えてみて下さい。「何をしていいかよくわからず、うろうろしている」「トップがその他大勢と同じことをしている」、どこかで聞いたような話ではありませんか?

それに対して、全員参加型で、救援活動のあるべき姿をフリーディスカッション形式で共に考えようではないか、という図上訓練ノウハウもあります。今から5年余り前、三重県で生まれたDIG(ディグ、Disaster Imagination Game)というものです。一言で言えば、「大きな地図をみんなで囲み、災害対策本部運営のシミュレーションをやってみよう」というもの。問題意識や問題点を共有するための仕掛けとして、大変優れたものであると自負しています。なぜ自負ですかって?私自身がこのノウハウの開発に携わったからです(^_^)

当時三重県消防防災課に在職中であった県職員の演出者としてのセンスと、三重県在住の防災ボランティアの熱意、この二つと97年3月に三重の地で出会うことがなければ、DIGは生まれなかったと思います。そんな三者の出会いに、今も感謝しています(^_^)

さて、3月22日午後、宮城スタジアムのセミナールームで、W杯宮城大会における医療救護活動を想定したDIGが行われました。被害想定は、後日予定されている実働訓練の被害想定と同じで、試合中メインスタジアムでバタバタと人が倒れ出し(こういう場合、まず、有毒化学剤が噴霧されたことを疑うべきです)、さらに現場から逃げ出そうとした人々が将棋倒しになった、というものでした。

小道具として、宮城スタジアムの構内図面と周辺の地図を用意してもらい、それらの上に透明のシートをかぶせ、ガムテープで固定しました。筆記用具として8色の油性ペンやポストイット、ドットシールなどを用意します。ベンジンとティッシュペーパーが消しゴムの代わりです。そして、ファシリテーター(小村)が出す課題を、各グループ(12〜13名×5グループ)毎に、図面に書き込みを加えながら議論してもらい、その結果を各グループから報告してもらい全員で共有するという形をとりました。幸いにも、県、JAWOC宮城支部、県警、地元消防機関、地元医療機関、自衛隊等、関係機関には一通り集まっていただくことが出来ました。(関係の皆さんに厚く御礼申し上げます。)

諸般の事情(主に警備上の理由)を考えると、現時点で議論の詳細を明らかにすることは慎むべきでしょう。さしさわりのない範囲で、ファシリテーターが出した課題を言うならば……。

有毒化学剤に汚染された人を、どの経路を経て施設外に誘導するか
有毒化学剤による汚染を洗い流す施設(除染テント)を、
スタジアム及び周辺のどこに設置するか
大量の傷病者を医療機関に搬送・収容するにあたり、誰が「仕切り役」を担うべきか

といったものです。

一つ一つの課題はいわば「素朴な疑問」に類することですが、DIGのように図面に書き込みながら議論をすると、意外と共通認識が出来ていないことが浮き彫りになってきます。問題が問題であると気付くこと。そしてそれが関係者の共通認識になること。まずはそこからスタートなのだろうと思っています。

後日の連絡によれば、その後の打ち合わせの場には、当たり前のように、地図と透明のシート、油性ペンが用意されていたとか。大したことではありませんが、わずかであっても前向きな仕事をしたという手応えを得ることは出来ました。

W杯本番まで1ヶ月を切り、準備も最終段階に入ったことでしょう。関係者の苦労を思うと、私のしたことなど物の数にも入りませんが、特に宮城スタジアムでの試合については、皆さんとは少し違う感慨を持って、TV観戦することになりそうです。

「ついに、ワールドカップが……」(その1)から読む
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富士常葉大学環境防災学部講師 小村隆史

小村 隆史先生:画像 小村 隆史
(富士常葉大学環境防災学部講師)

1963年千葉市生まれ。ICU卒。同大学院修士課程 修了。
防衛庁防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本で最初の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境 災学部に、開学と同時に着任。教育・研究の傍ら、災害医療救護計画の改訂、自主防災組織リーダー研修、災害図上訓練DIG(ディグ)の企画・運営などにも携わっている。防衛研究所在職中からボランティアとしても活躍。ナホトカ号重油流出災害、東海豪雨災害では本部運営にも関与。昨年夏はネパールに滞在し、カトマンズ盆地地震防災計画の立案プロジェクトに参加。

 

 
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