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防災研究家の与太噺
富士常葉大学環境防災学部で防災について研究をされている小村さんに防災学についてコラムを書いていただいています。

■2002.3.25 Vol.7
「ついに、ワールドカップが……」(その1)

年度末のドタバタで、更新が滞ってしまいました。ごめんなさい。原稿の締め切りを守れる人って、それだけで尊敬してしまいます。小村に締め切りを守らせるためにはどうすればよいか、スタッフの皆さん、知恵を絞ってね(と、ほとんど他人事)。
 さて、久しぶりの与太噺では、去る3月22日、宮城スタジアムで行われた、ワールドカップ(以下W杯)を想定した図上訓練ネタでご機嫌をうかがいます。

W杯については、今さらくどくどと言う必要もないでしょう。このコラムを書いている時点で、開催まであと70日を切り、オフィシャル・スポンサーのCFも花盛り。いよいよ歓迎ムードが盛り上がってきた、と言いたいところなのですが……。集団災害医療に携わる人々の間では、実はこれは大変な、大変な悩みの種なのです。

2月末に岡山県倉敷市で行われた、日本集団災害医学会の学術総会では、W杯についてのフリートークの場が設けられました。様々な議論がなされましたが、その中で最も印象に残ったのは、旧知のM医師の一言でした。M先生は、知る人ぞ知る災害医療のエキスパート、それも単なる臨床医ではなく、かつては陸上自衛隊の医官(昔流に言えば軍医)として衛生部隊の様々な職を勤め、NBC兵器対策にも詳しい方。たまたま某スタジアム直近の病院は、M先生が現在勤める大学の系列病院とのことで、そこの病院長から専門家としてアドバイスを求められたならば、という主旨で発言を求められたのですが……。

「現時点で私が出来る最大のアドバイスは、『当日は病院を閉鎖しなさい!』です。」

これを聞いて、「一体何てバカなことを言っているのだ?」と思う人も多いでしょう。医師たるもの、患者を放置し、現場を放棄すべきとは何事か、と。しかし私は、M先生でなければ言えない、何と勇気ある発言かと思います。私に限らず、M先生の経歴と見識を知り、共に災害医療を学ぶ者であるならば、発言の主旨は理解してもらえると思います。それほど、事は重大であり、準備は大変なのです。「素人は容易さを語り、玄人は困難さを語る」と言われますが、それにしても「病院を閉めろ」とは、いかに学会という専門家を相手にする場であっても、よほどのことがなければ言えないセリフです。でも、それは決して冗談や受け狙いの発言ではないのです。
確かに、選手やVIPについては、また施設内で起こる一般的な種類・規模の疾病(ちょっとしたケガなど)については、それなりに準備されています。しかし、こと集団災害、それもNBC兵器や爆発物が絡むような事態までは、準備態勢が追いついていないのが実情なのです。そして、M先生は、その経歴から、これらの事態に備えることの困難さが、人一倍わかっていたのだと思います。

日本は、東京・亀戸での異臭事件、松本・地下鉄サリン事件、東海村臨界事故、明石の花火大会における圧死事故等々、様々な特殊災害や、イベントにおける多数傷病者発生事案を経験してきました。また、フーリガンの存在は広く知られるようになってきています。そして世界は、2001年9月11日に何があったかを知っており、ソルトレークオリンピックでアメリカがどれだけの(テロ)対策をしたかを見てきています。当然世界は、先進国日本、しかもこれだけ実例があり直前に良い見本があるからには、それなりに手は考えているのだろうな、と期待していることでしょう。

しかし、M先生の発言に見られる通り、これらを踏まえた上でそれなりの備えをすることは、半端な難しさではありません。フーリガン対策、NBCテロ対策、VIP対応、暴動への対応等々、考えればきりがありません。しかも、これらのことはあくまで裏方の仕事であり、何もなかったらなかったで、何でそんなに金と時間を使ったのだと嫌味を言われ、不幸にして何かあったらスケープゴートにされてしまう、そんな不幸な役回りです。

 そんな困難さがわかっていましたから、私自身としては、「出来ることならば、あまり関わりたくはないなぁ……」というのが正直なところでした。しかし、今年1月下旬のある日、ある方から電話とメールをいただきました。「手伝ってくれないか」、と。

どれだけ制約が多くても、どれほど課題があろうとも、何かをしなくてはという熱い思いを持ったサムライは、いるものです。W杯についてもそうでした。そういったサムライの熱意に打たれ、宮城・仙台の地で共に仕事をすることになったのですが……。本論に入る前に紙幅が尽いてしまいました。ということで、次回、いよいよ本論です。

「ついに、ワールドカップが……」(その2)へ続く

ご意見、ご要望、ご質問などは、komura-column@rescuenow.netまでお願いします。


富士常葉大学環境防災学部講師 小村隆史

小村 隆史先生:画像 小村 隆史
(富士常葉大学環境防災学部講師)

1963年千葉市生まれ。ICU卒。同大学院修士課程 修了。
防衛庁防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本で最初の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境 災学部に、開学と同時に着任。教育・研究の傍ら、災害医療救護計画の改訂、自主防災組織リーダー研修、災害図上訓練DIG(ディグ)の企画・運営などにも携わっている。防衛研究所在職中からボランティアとしても活躍。ナホトカ号重油流出災害、東海豪雨災害では本部運営にも関与。昨年夏はネパールに滞在し、カトマンズ盆地地震防災計画の立案プロジェクトに参加。

 

 
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