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09.10.21

ついに、ワールドカップが......(その2)

 「現時点で私ができる最大のアドバイスは、『当日病院を閉鎖しなさい!』です。」

 前回のコラムのハイライト、陸自の医官であったM医師の「決めセリフ(?)」です。(話の見えない方、第7回のコラムをご一読下さいませ。)この発言が、レスキューナウ・ドット・ネットのスタッフの間でも、話題になりました。ということで、予定を変更して(「そもそも予定なんてある訳ないだろ?」という突っ込みはナシよ>K君)、図上訓練の話に入る前に、この発言の真意について、私なりに考えたことをお示ししたく思います。

 突っ込みを入れてくれたのは、コラム担当I氏。I氏曰く、
「"病院を閉鎖する"とは、どういうことなんだ?と、理解できませんでした」

 確かに、地下鉄サリン事件や明石での将棋倒しなど、人が大勢集まる場所でアクシデントや計画的事件が起きています。しかも、昨年のアメリカでの同時多発テロがきっかけで今回のオリンピックは、かなりの警戒をしたのも事実です。
 でも、逆に考えれば、各会場へ足を運んだ何万というサポーターの中で、1人や2人の病人が出るのも不思議ではありません。そういった時に、日本の病院が閉鎖されていたとなれば、海外からみれば「なんで病院が閉鎖されているんだ」ということにならないでしょうか?

 おいおい、I君、ちょっと待ってよね(^^ゞ
 まさか、M先生が本気で「病院を閉めろ」と言ったとは思っていないでしょうね。無論、反語的な意味で言ったと考えるべきでしょう。ただ、たとえ反語的な意味にしても、また自由な討論を旨とする学会という場であっても、仮にも医師が、医師に対して、医業を放棄せよ、と言う訳ですから、暴言だと誤解されかねない発言であったことは事実です。しかし、M先生が(暴言の裏に)言わんとしたことは、大体想像できます。

 現状では、医師として責任をもって医術を全うできる状況にはない。一般救急のレベルはともかく、集団災害や特殊災害を考えると、想定され得る最小規模の事態に対しても十分な備えができていないからである。であるならば、早めに「お手上げ」宣言を出し、残された時間は少ないが、多くの知恵を寄せ合って最善の策を求めるべきであろう。仮設病棟の開設も可能になるかもしれない。医療救護班や搬送手段のさらなる増強も可能かもしれない。図上・実働の訓練機会ももっと増やせるかもしれない。ともかく、現状が危機的状況にあることを赤裸々に示した上で対案を考えたほうが、結果としては良い対応が可能になるのではないか。

 私は、M先生の発言に、そのような隠されたメッセージを感じました。そして、あえて暴言を吐いたところに、M先生の「男気」を感じたような次第です。

 誤解のないように念押ししておきますが、選手や役員、VIPに対する医療救護、あるいは観客の一般的な疾病については、一通りの準備はなされています。問題は、将棋倒しのような集団災害についてまで、あるいはNBCテロのような特殊災害についてまでは、準備が追いついていない、ということなのです。

 適訳は未だありませんが、Mass Gatheringという言葉があります。文字通り、多くの人が、共通の目的のために一箇所に集まることを言い、祭り、コンサート、スポーツイベント等々、いろいろなものがあります。概ね千人が一つの目安です。そして、Mass Gatheringについては、「気分が悪くなった」程度の人を想定した「運動会の救護所+α」程度を準備しておけば事足れり、という認識を脱し、(最低限)過去に起こった最大規模の事例を想定し、それについてはきちんと対応できるように備えようではないか、という機運がようやく出てきました。言うまでもなく、このような機運をもたらした直接的な契機は、昨年7月、明石市の花火大会の際に起こった痛ましい圧死事故です。(ちなみに、この圧死事故についての報告書「第32回明石市民夏祭りにおける花火大会事故調査報告書」は、http://www.city.akashi.hyogo.jp/jikochousa/houkoku.htmlでダウンロードできます。)

 厚生労働省の助成金による厚生科学研究「Mass gatheringにおける集団災害ガイドラインの作成とその評価(主任研究者:山本保博)」では、今回のW杯においては、約200名の死傷者を倦んだ1985年の「ヘイゼルの悲劇」(死者39名)と同規模の災害に対応できなければならないとしています。「ヘイゼルの悲劇」については、同じレスキューナウのホームページで連載中の「ワールドカップを楽しむために!」で、いずれ紹介していただけるものと思っていますよ>大山さん。

 W杯は世界的な意味を持つイベントです。私は、テロは時代を逆行させることはあっても、新しい時代を拓くものではないと確信している者の一人ですが、それでも、貧困と富の偏在という根本原因がある以上、テロに訴えかける者がまだ続くであろう、とは思っています。そして、W杯が国際的なスポーツイベントである以上、テロリストのターゲットにはならない、という保証はありません。

 N、B、C、さらに爆発物......。考えれば考えるほど、頭が痛くなります。でも、限られた時間と予算の中でも、ベストを尽くそうとしている人は、まだまだいます。反語的な意味ではM先生もそうですが、宮城の地にもサムライがいました。
ということで、次回、ようやく、本論です。

2002.4.1

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富士常葉大学環境防災学部講師 小村隆史
1963年千葉市生まれ。ICU卒。同大学院修士課程修了。防衛庁防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本で最初の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境災学部に、開学と同時に着任。教育・研究の傍ら、災害医療救護計画の改訂、自主防災組織リーダー研修、災害図上訓練DIG(ディグ)の企画・運営などにも携わっている。防衛研究所在職中からボランティアとしても活躍。ナホトカ号重油流出災害、東海豪雨災害では本部運営にも関与。昨年夏はネパールに滞在し、カトマンズ盆地地震防災計画の立案プロジェクトに参加。

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