壁の崩落と年度末の納期
アメリカのロードアイランド大学でウイルスについて研究をされている竹田さんによる、日々の危機管理についてのコラムです。
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「解体現場にも作業の完全確認の徹底を!」
静岡県富士市にある解体中の旧ヤオハンビルで、壁の崩落事故がありました。このビルの解体納期は今年度末でしたので、かなりラッシュの工事をしていたと予想されます。
工事現場というのは安全管理が大切で、作業員の休息などを含めて充分な余裕が必要となりますが、これは建設現場では守られることはあっても解体現場では煩雑になってしまう傾向があります。そこで、作業員がどのような手順でこの工事を行っていたのか想像してみます。想像に過ぎませんので、事実とは異なる場合もあります。
3月13日木曜日朝7時集合、騒音を伴う作業から8時に作業開始。周辺は商店街であり、午前8時ごろの道路は、渋滞とまではいえないものの混み合います。作業は既に1ヶ月ほど前に解体作業中に埃が舞わないように覆いをかぶせた状況になっているビルで、周辺商店街の人々も含めて埃が商品や屋根にかぶるのを極度に気にしている状態で、いよいよ納期直前3月31日から始まりました。納期直前から始める理由は、他の建設現場などに重機が廻っていたこともあり、半公共事業的な作業は後回しにしても支払いが確実に行われるので、今週まで本格的な作業には入っていませんでした。しかし、納期を越えることはできません。納期が遅れるとペナルティーが科せられるためです。解体は上階から、重機で押し付けながら内側に引き倒していく方法がとられました。今回はやや高いビルですので、建物の内側の壁にチェーンもしくはワイヤーで巻き閉めて壁を引き倒す方法です。既に内部のモルタルの壁は取り壊してあり、作業場は雑然とした状況になっていました。
週末にはほとんど姿がない状態になるまで解体される予定だったので、今週末は休み無しになるかもしれない状況でした。納期前のあわただしい状況の中、10時の休憩、12時からの昼休み、15時の休憩があり、春の冷たい小雨が降ってきた中で「参ったな、雨だ」と誰もがつぶやきながら作業が再開された直後でした。
週末に近づくこの木曜日。15時以降という時間帯は、商店街は学生などが道を歩き始め、だんだんと混雑してきます。しかし、作業場の覆いの中は別世界で、朝から働く作業員にやや疲労が出始め、あと数時間で作業が終わることへの期待感が高まり始めます。建設現場では口うるさいと思うほど現場監督の巡回がありますが、雑然として解体現場は監督の視察はそう多くありません。作業は慣れた作業員が自分の手前の壁を壊すことに集中し、ビルがどのように壊れていくのかを安全確認する余裕がなくなってきています。
しかし、埃を防ぐために組まれ、覆いを被せた足場では、重いコンクリートの壁が道路に落下するのを抑えることはできません。ピックを使った強い振動により、壁は崩落して、乗用車を押しつぶしました。足場ごと作業員も落下し、落ちてきた壁に押しつぶされました。
3月31日の納期期限を守ることを念頭に置いていた作業は、このとき初めて中断しました。周辺には安全管理は充分だったのかと問う人々が集まってきました。納期は守り、埃は出さなかったが、犠牲者を出しかねない作業場はこの時期少なくありません。もう一度作業の安全点検をしてみてください。
竹田 努(Rhode Island 媒介性疾病センター アルボウイルス研究主任)
※この記事は、2000~2004年頃の「rescuenow.net」に掲載されたものを再掲載したものであり、筆者の所属や登場する団体名等は、このコラムの執筆当時のものです。














