鳥から蚊、そしてヒトへ感染 02.11.20 12:11
「ウエストナイルウイルスとは?」
日本ではまだこのウイルスの名前を聞いたことがある人は少ないかもしれません。「西ナイル熱」とも呼ばれる感染症で、大都市のニューヨークを襲いました。日本にも危険はすぐそこまでやってきているのです。
1999年7月、ニューヨークではカラスが空から墜落し始めました。ニューヨークは世界で最も忙しいといわれる街です。そんな夏のカラスの死に、誰一人関心を持つはずもありませんでした。しかし、お年寄りが一人、また一人と病気にかかり始める前に、何かが始まろうとしていることに彼等は気がつくべきだったのかもしれません。まさかその始まりがアメリカ全土を巻き込む感染症との壮絶なバトルの始まりになると誰が予想したでしょうか。
このウエストナイル・ウイルスは1937年、ウガンダの西ナイル付近で発見されたことによりこの名前が付けられました。ウイルスの構成自体は、「日本脳炎」とも似ていますが症状の一つに特徴的なものがあります。それは、手や足の筋力低下です。その他に脳炎の症状として一般的な、発熱・精神的障害・免疫低下等の症状が見られます。
では、何故このウイルスがウガンダからアメリカまで運ばれたのでしょうか。この間の距離はあまりにも遠く、渡り鳥はそう辿り着きません。想像されるのは空輸で持込まれたか、あるいはコンテナを外国から運んでくる際に蚊がそこに住みついていた可能性などがあります。実際、ニューヨークで ウエストナイル・ウイルス にかかり脳炎を発症した患者が確認された1999年、付近では鳥の死亡が確認され、動物園の鳥も死亡しました。
あれから2年、その後の ウエストナイル・ウイルス はどうなっているのでしょうか。
ニューヨークの近くに位置するロードアイランド州では、日本から1人の先生が、この「ウエストナイルウイルス」を研究していらっしゃいます。ロードアイランド大学媒介性疾病センターアルボウイルス研究主任の竹田先生です。これまでの見解と今後の対策について伺いました。
●アメリカでのウエストナイルウイルスについて
ウエストナイルウイルスの調査をはじめて、既に3年目になるわけですが、既にCDC(連邦疫病管理予防センター=Centers for Disease Control and Prevention)の報告にもありますように、ウエストナイルウイルスの汚染地域は、東海岸からアメリカ南部全域に渡ろうとしています。
1999年の段階では、わずかにニューヨーク州のニューヨーク市内だけという限られた範囲内での感染症に過ぎなかったものが、3年の月日でここまで拡大してしまったことは驚きであります。このことを踏まえて考えると、新興感染症(*1)や再興感染症(*2)は初期の段階で適切な処置ができたとしても、防ぎきることが可能なのかどうか疑問にさえ思います。現に、1999年の8月の段階でウエストナイルウイルスとして認識されていなかった時期にもニューヨーク市内では殺虫剤散布が行われており、早い対処がなされていたといえましょう。にもかかわらず、ウイルスの侵攻を押さえられなかった理由の一つに、都市の複雑な構造、たとえば、地下鉄などに蚊が隠れられる場所が多いということが挙げられます。それに、自然界に飛び立った蚊を100%抑えることなどそもそも不可能だということなのです。
●殺虫剤の効果
殺虫剤の効果は、蚊の全体数を減らし、人との接触の回数を減らすことで感染の機会を減らす効果があるとは考えますが、完全に防疫する目的には合致しません。もし防疫をするとするならば、輸入に際するコンテナー内や旅客機内の完全な殺虫が行われれば、防ぎきれたかもしれません。
●先進国の責任
新興性感染症の広がりは、当初は水に落とすインクのようなものなのです。落としてしまう前にすくい取れなければ、次々に広がって一度見えなくなってしまいます。幸運なことに、ウエストナイルウイルスはこれらの教訓を伝えるには適度な危険性のウイルスで、発病しても致死率9%という、取り立てて怖い部類の感染症ではありません。
しかし、怖い感染症ではなかったら大丈夫ということではなく、今回の教訓から「ポストウエストナイル(ウエストナイル後)の感染症」に対して注意を払っていかなくてはなりません。
ウエストナイルウイルスの汚染は現在も着実に広がっています。間違いなく南アメリカに向かっているに違いありません。何百万ドルもの予算を費やして調査できる合衆国とは異なり、南アメリカの諸国ではこの先、患者が出るまでその侵攻を確認できなくなる恐れがあります。こうなると、先進国である合衆国が撒いた問題によって、他国が影響を受けるわけですから、責任の問題になると思われます。
●日本へのメッセージ
現地から日本国に警告したいのは、日本はアジアの先進国として、同様な感染症の広がりを引き起こす引き金にならぬように、自国の利益だけでなく他国の安全を考慮に入れて責任ある防疫システムを更に詳細に立ち上げる必要があると考えます。また、万が一感染症が広がってしまった場合、迅速に汚染地域を特定し、適切な処置を講じる心構えが必要でしょう。
アメリカの失敗は、「ウエストナイルを持っている蚊は越冬できない」という甘い観測を抱いたところにありました。感染症は必ず広がる方向に進みます。それを念頭に被害を最小限に食い止める最良の方法を即時的に勇断をもって決行しなければなりません。 (写真の説明:上から順に)
・日本とアメリカの大きさの比較
・蚊を採取するトラップ
・死亡した鳥の解剖の様子
・ウエストナイルウイルスに感染したサルの細胞
(*1) 新興感染症:かつて知られていなかった新しく認識された感染症で局地的、 あるいは国際的に公衆衛生上問題となる感染症のこと(病原性大腸菌O-157やウシ海綿状脳症など)
(*2) 再興感染症:既知の感染症ですでに公衆衛生上問題とならない程度にまで 患者数が減少していた感染症のうち、再び流行しはじめ患者数が増加したもの(結核、サルモネラやコレラなど)
【NIH-NET :West Nile Virus (西ナイルウイルス)】
【国立感染症研究所 感染症情報センター】
【海外渡航者のための感染症情報】
※この記事は、2000~2004年頃の「rescuenow.net」に掲載されたものを再掲載したものであり、筆者の所属や登場する団体名等は、このコラムの執筆当時のものです。












