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マニュアルって何?(その2)

02.03.05  この記事をGoogle Bookmarksに登録する この記事をYahoo!ブックマークに登録する この記事を含むlivedoorクリップ この記事をイザ!ブックマークに登録する この記事をニフティクリップに登録する この記事をdel.icio.usに登録する この記事を含むはてなブックマーク


 レスキューナウホーム上にコラムを連載し始めて、今回で6回目です。ポツポツとですが、感想も寄せていただけるようになりました。やはり反応があるってことは嬉しいことですね。(ちなみに、送っていただいた感想は私とスタッフに自動転送され、以降の参考にさせてもらっています。)という訳で、今回は、連載第4回「マニュアルって何?」に寄せられた感想を元に、マニュアルの話をもう少ししたいと思います。

 感想を寄せて下さった方は、四国にあるS消防本部のYさん。消防の仕事で言うと「予防」という、火災や災害が起こらないように設備や態勢について指導する立場の方です。私とは旧知の間柄ですので、いわば身内からの感想ですが、それはさておき、寄せられた感想の主旨は以下の通りです(小村が要約しています)。

 「旅館・ホテルの適マーク(正式には表示マーク)は、1年ごとの更新になっているが、幾つかの審査基準があり、これをクリアーしないと更新ができない。その審査基準の一つに、夜間防火態勢の整備状況がある。夜間に火災が発生した場合、限られた人数でどのように対応するのかが、『火災報知器が鳴ったらどうするか』『119番はどうするか』『初期消火はどうするか』『宿泊客の避難誘導はどうするか』『防火戸はどうするか』といった細かい項目と基準が消防庁からマニュアルとして示され、基準を満たさなければ適マークの更新ができないことになっている。このように、マニュアルは、行動に移されなければ『絵に描いた餅』で終わるのではないか。」

 ご指摘、しごくごもっとも。マニュアルは、行動に移されなければただの紙です。もっとも、今回取り上げたマニュアルは、ちょっと特殊なマニュアルというべきかもしれませんね。一般にマニュアルというと、この例で言えば、旅館・ホテル側が「何をなすべきか」などをまとめたものを指す場合が多いと思いますので。とはいえ、消防署側の指導は、チェックすべき項目と達成基準を明示して行われたでしょうから、結果(成果と言うべきかな?)は同じですね。そして、いざという時にどう対応すればよいのかが身につけば、もはやマニュアルは必要なくなるというのは、以前に述べたとおりです。

 さて、必要とあれば、相手がどれだけ「ブーたれて」いようが、強制力をもってでもマニュアル通りに実際に行わせること、ここまでできるのは、消防、それも予防ならではのことなのかもしれません。何せ災害救援の世界では、何をどうしたらいいのか具体的にはわからないような代物が、マニュアルとして通用してしまっていますので。「何を」「誰が」「いつ」「どこで」「どうやって」「どのレベルまで」、そして「なぜ」行うか、それらが具体的に書かれてあってこそ、マニュアルの名に値すると思うのですが......。はてさて、消防(予防)のマニュアルの先進性を誉めるべきか、災害救援のマニュアルの後進性を嘆くべきか......。

 もっとも、マニュアルの出来はさておき、マニュアル通りにできる/やらせるということについては、別の課題があるとのことです。Yさんご指摘のケースでは、マニュアル(の基準)を満たさないと適マークの更新ができない訳ですから、やらされる側にとっても、本来は必死のはず。しかし実態としては、旅館・ホテルはまだ協力的なほうで、病院や社会福祉施設の場合は、もっと大掛かりなものになってしまうため(例えば入院患者・入所者などを実際に避難させて所要時間を計ることが必要になるため)、なかなかやってもらえないとのこと。それが現実なのだろうなぁとは思いますが......。でも、その結果、不測事態への対応力が上がれば、何よりハッピーなのはやらされた本人なのです。たとえ、そう思っていない人が圧倒的多数であろうとも。

 ところで、消防のマニュアルと、災害救援に関わる者のためのマニュアルの違いって、何に起因するのでしょうか。今回取り上げたマニュアルでは、担当者が行うべき事柄が明示され、しかもその基準まで決められています。課題が限定されているとはいえ、ここまできちんとマニュアルが出来ているということは、やはり、それだけ多くの実例があり、だからこそ携わっている人・組織も多く、検証や研究もなされているからなのだと、私は思います。

 災害の大きな特徴の一つは、低頻度であるということです。2035年±10年に発生すると言われる東南海・南海地震に向けて、西日本は地震の活動期に入ったと言われますが、それにしたところで、人命や社会に大きな被害をもたらすような災害は、(幸いにと言うべきでしょうが)そう何度も起こる訳ではありません。低頻度のものにそんなに大きな投資がなされるものではないことは、少しでも組織に携わったことがあれば容易に理解できるはず。実際、防災や災害救援に携わっている人の数もそう多くはありません。そう考えると......。
 「マニュアル!マニュアル!!」とのたまわれる方には、そのままおのれの頭の出来の素晴らしさを誇示していただくとしても、いざという時に備えて、本気で、使い物になるマニュアルを用意しておく必要性はあるのだろうなぁ、とは思っています。ただ、それさえ読めば素人さんがやっても及第点が取れるもの、という域まで作りこまなければ、本当の価値はありませんが。だからという訳はありませんが、現在、災害医療関連で2つ、防災行政関連で1つのマニュアル作成に携わっています。もっとも、いずれも手応えのありすぎる代物。お気楽に「マニュアル!マニュアル!!」と言える人が羨ましく思えるくらいです。

2002.3.5

※この記事は、2000~2004年頃の「rescuenow.net」に掲載されたものを再掲載したものであり、筆者の所属や登場する団体名等は、このコラムの執筆当時のものです。

小村 隆史(こむらたかし) 富士常葉大学環境防災学部防災社会科学分野 准教授
1963年千葉市生まれ。国際基督教大学教養学部卒。同大学院行政学研究科修士課程修了。防衛庁(当時)防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本初かつ唯一の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境防災学部の開学メンバー。教育・研究に加え、地域・社会・国際貢献を含めた3本柱が防災研究者とあるべき姿と思い定め、地域防災、国際防災協力、災害医療など、防災・危機管理に広く携わる。「トラメガ持ってボラセンを仕切った経験を持ち」「トヨタ自動車の防災・危機管理アドバイザー格」「内閣府・内閣官房などの委員も務める」が、論文は書かない(正しくは「書けない」)という、明らかに「規格外」の大学教員。災害図上訓練DIG(Disaster Imagination Game、ディグ)の考案者としても知られている。

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