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マニュアルって何?(その1)
今回のコラムは、東京・立川にある国立東京災害医療センター(TDMC)で行われている研究会の休み時間に書いています。TDMCと言われても初耳の人がいるかもしれませんが、ここは日本の災害医療の「最後の砦」であり、災害医療に関する国内最高の教育病院たらんと日々努力を続けています。今日も、私たちの研究会に平行して、全国各都道府県から選抜された災害医療関係者に対する3泊4日の研修会が行われていました。
私たちの研究会では、いざという時に地域の災害医療の拠点として活動してもらう病院のため、災害医療対応マニュアルの電子化に取り組んでいます。災害医療についても与太噺のネタは幾つもあるのですが、それは近いうちにということで、今回はマニュアルについて一くさり。
何かトラブルがあった際、お偉いさんは、二言目には「マニュアルを作れ」と言うようです。「マニュアルがなかったから、うまくいきませんでした」という話も、よく聞きます。では、そういう方がイメージしているマニュアルって、どういうものなのでしょうか。私は、どうも素直な性格ではないようで、「マニュアル!マニュアル!!」と騒ぐ人に対しては、つい、「自分の無能ぶりをさらけ出して、何が面白いんだろうか」と思ってしまいます。なぜですって? 理由は簡単。何をすればいいかわかっている人に、マニュアルは必要ないのですから。
お偉いさんがマニュアルを求めているということは、裏返せばそのお偉いさんは、自分は何をしたらいいか、何を指示すればいいかがわかっていない、ということを意味します。(某業界では、「バカな大将、敵より恐い」と言われたりしています。)いざという時、災害救援のプロが必要とするのは、マニュアルではなくチェックリストです。マニュアルに相当する部分はすでに頭の中に入っている、というのがプロのプロたる所以です。でも、たとえプロでも慌てて凡ミスをする可能性はゼロではありません。そこを補うのがチェックリストであり、リストを見ながら自らの対応を確認する、という訳です。
では、マニュアルは何のためにあるのでしょうか? 私は、こんな風に考えています。
「たとえ災害や事故の直前に異動してきた人であっても、それを読めば、何をすればいいのかといったことが一通りわかり、その通りに行えば、満点とはいかずとも合格点は取れる、そのためのものである」と。
おそらく、ここまでの理解は多くの人とあまり差はないと思います。では、「世の中にごまんとある防災マニュアルの中で、それを読めば何をすればいいのかなどが一通りわかる、マニュアルの名に値するマニュアルは、一体幾つあるのか」と問うたならば、皆さんの身の周りに山とあるマニュアルは、いくつ合格点をもらえるでしょうか?
何をすればいいかを具体的に示すこと、これは実は生半可なことではありません。その活動内容が具体的にわかっていなければ、本当に役に立つマニュアルなど、書けるものではないのです。(この意味でも、「マニュアル!マニュアル!!」と騒ぐ人に、「おいおい......」と言いたくなってしまうのですが......。)それはさておき、では、「一味違う」マニュアルは、どうすればできるのでしょうか。
まどろっこしいとは思っても(特に「マニュアル!マニュアル!!」と騒ぐ人にとっては、ね)、詰まるところ、一つ一つの項目を、愚直に、ギリギリと、可能な限り具体化・数量化し、普通の市民にわかる言葉で、しかも短くまとめる、これしかないのだろうな、というのが現時点での私の理解です。
その際重要なのは、一つ一つの「何をすべきか」が、「幾つかのレベル(例えば大中小の3段階)にきちんと分けられている」ことであり、それらが「時系列に沿って整理されている」ことです。そして、一つ一つの「何をすべきか」毎に、「誰が行うか」が、固有名詞で三席まで決められていること、さらに「どこで行うか」「なぜ行うか」「どうやって行うか」「どのレベルまで行うか」が、明示されていることです。
一つ一つの「何をすべきか」をここまで分解・再構成して初めて、マニュアルはマニュアルの名に値するものになるし、ここまで噛み砕いて書かれたマニュアルであれば、その通りにやれば、そう間違ったことにはならないと思います。
(ついでに言えば、このようにしてマニュアルが完成した後、図上・実働の防災訓練によって、実行可能性の検証がされなければなりませんが......)
マニュアル作りって、本当はメチャクチャ大変なんです。手を抜くつもりならば、いくらでも抜けますけれどね。という訳で、私は「マニュアル!マニュアル!!」と騒ぐ人は嫌いです。
ご意見、ご要望、ご質問などは、komura-column@rescuenow.netまでお願いします。
小村 隆史(こむらたかし) 富士常葉大学環境防災学部防災社会科学分野 准教授
1963年千葉市生まれ。国際基督教大学教養学部卒。同大学院行政学研究科修士課程修了。防衛庁(当時)防衛研究所助手・主任研究官を経て、日本初かつ唯一の防災学部である富士常葉(とこは)大学環境防災学部の開学メンバー。教育・研究に加え、地域・社会・国際貢献を含めた3本柱が防災研究者とあるべき姿と思い定め、地域防災、国際防災協力、災害医療など、防災・危機管理に広く携わる。「トラメガ持ってボラセンを仕切った経験を持ち」「トヨタ自動車の防災・危機管理アドバイザー格」「内閣府・内閣官房などの委員も務める」が、論文は書かない(正しくは「書けない」)という、明らかに「規格外」の大学教員。災害図上訓練DIG(Disaster Imagination Game、ディグ)の考案者としても知られている。












